東日本大震災の震源地から300キロ離れた千葉県浦安市。震度5強の揺れに見舞われた埋め立て地は、液状化現象で地面がゆがみ、今も水道やガスが使えない状態が続く。不便な生活を強いられるが、東北地方の甚大な被害に思いを寄せる住民からは「我慢するしかない」という声も漏れる。
都心からわずか10キロの住宅街に、深刻な被災地の光景が広がる。液状化で地中から泥状の砂が大量に噴き出し、地面は波を打ったように隆起し、電柱は今にも倒れんばかりに傾いている。特に被害が大きかったのが、JR新浦安、舞浜駅近くの住宅街。湿った砂を取り除く作業が至る所で行われた。
新浦安駅に近い今川地区に妻と長男と住む無職、渡辺啓公さん(71)は、「地球が呼吸をしているようだった」と地震発生当時を振り返る。激しい揺れを感じて玄関から外を見ると、道路が大きく波打っていた。しばらくするとアスファルトの割れ目から泥状の砂が噴き出し、自宅玄関の中まで押し寄せた。
自宅は柱がわずかに傾いた程度で停電もなかったが、水道とガスはいまも通じない。市の給水車から飲料水を補給し、1日数リットルの水で生活する。下水も止まっているため、近くの公園に設置された仮設トイレまで行かなくてはならない。発生から風呂は知人宅で1回入っただけだ。
築30年の自宅の修繕費はいくらかかるか分からないが、「それでも、東北の被災者よりはよほどましだ」と渡辺さん。「不便だが、復旧を待つしかない」と話していた。
浦安市によると、22日時点で約4千世帯が断水し、約1万3千世帯が下水道使用を制限されている。ガスは約4600世帯で止まったまま。いずれも液状化のため水道管の接続が外れたり、砂が入り込んで詰まるなどしているという。「まずライフラインから工事を急いでいるが、復旧の見通しは立っていない」(災害対策本部)
今川地区と同じく被害の大きかった富岡地区では、自宅にひびが入ったなどの理由で2世帯計8人が、市内の公民館に避難している。
小中学校の被害も深刻だ。市教育委員会によると、全26校のうち20校の校庭が液状化し、隆起したり亀裂が入ったりしているという。下水道が止まっているため、長時間の授業は困難だという。25日に予定されている修了式は、時間を短縮して挙行する。
同市を視察した京都大防災研究所の田村修次准教授(地盤地震工学)は「過去の地震と比べてもかなり激しい液状化だった。被害が少ない地域もあり、地盤改良などの対策を取ったかどうかの差が出たのでは」と話す。「液状化すればライフラインが長い間使えなくなる。管のつなぎ目が外れにくい水道管を設置するなど、あらかじめ対策を取る必要がある」と話している。